プロが語る世界情勢・政治・経済金融の最前線!

The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2015/07/31 00:56  | アフリカ |  コメント(1)

オバマ大統領のアフリカ訪問


オバマ米大統領、訪問先のケニアで同性愛禁止を批判(7月26日付CNN記事)

現職の米国大統領として初めてのケニア訪問。意外に思われるかもしれませんが、米国の大統領はアフリカにはほとんど足を運びません。

ジョージ・W・ブッシュがめずらしく頑張っていたという印象です。基本的にアフリカ政策はUSAIDがやるものであって、大統領がやる仕事とは思われていないのでしょう。

さて、今回の訪問では、オバマの父親の故郷であるコゲロ村は訪問しないとのこと。同村の人たちがひどくがっかりしたそうです。この決定は、セキュリティとかロジ上の理由によるもので、それ以上に大きな背景はないと思います。ただ、ここで思い出すのは、前回の大統領選で問題になったオバマの出生疑惑です。

米国の大統領は、生まれながらに米国人でないと就任の資格がありません。移民で米国人になった人は大統領になれないということです。このため、カリフォルニア州知事を務めたアーノルド・シュワルツェネッガー(オーストリア系移民)、ミシガン州知事を務めたジェニファー・グランホルム(スウェーデン系移民)は、一時期、大統領候補とも言われましたが、まず憲法改正が必要・・という話になりました(米国憲法は過去に何度も改正しているので、現実的可能性がない・・・という話ではありません)。

オバマは父親がケニア人ですが、ハワイ生まれなのでこの条件を満たしています。ところが前回の大統領選では、オバマは実はケニア生まれであり、条件を満たさないという主張が一部の共和党員から大まじめに出されました。

同様の言いがかりは、その前の大統領選でジョン・マケインが出馬したときにも出されました。マケインの父は駆逐艦の名前の由来になったほどの有名な軍人ですが、マケインはその父がパナマの軍施設で勤務していたときに生まれました。このため、米国生まれの米国人ではない、という主張が出てきたのです。親が米国人なのでナンセンスな主張だったのですが、マケインはすぐに出生証明を出して対応しました。

これに対して、オバマはなかなか出生証明を出さなかったため(最終的には公表に至るのですが)必要以上に不毛な論争が続いてしまいました。この経緯を思い出すと、コゲロ村に行くのが何となくはばかられたのかな・・と思うのですが、まあ一つの考慮要因ぐらいにはなった、という程度のことと思います。

ところで、エチオピアを訪れたオバマは、もう一回大統領選をやったら自分は勝つ、しかし3選は憲法上できないので、残念ながらできないとして、長期独裁を続けるアフリカの大統領を揶揄する演説を行いました。

オバマ氏「3選出馬なら勝利」 アフリカ指導者の多選に皮肉(7月30日付CNN記事)

これはさすがですね。オバマの自信過剰とジョークのセンスが冴え、しかもアフリカの問題点を見事に突いた、絶妙のスピーチだったと思います。

私はオバマを一躍有名にした2004年の民主党党大会における演説をよくおぼえています。このときから、彼は米国史上に残る演説の名手になるだろうと言われていました。それから上院議員、大統領を2期務め、期待に違わぬ数々の名演説を残しました。この点については、歴代大統領の中でトップクラスだったといって誰も文句はないでしょう(これに匹敵するのはビル・クリントンただ一人と思います)。

話を戻すと、アフリカの独裁者は本当に任期が長いです。現職では、カメルーンのビヤが33年間、ウガンダのムセベニが29年間、チャドのデビが25年間。

過去の例では、2005年に死去したトーゴのエヤデマは38年間(現在はその息子が大統領)、2009年に死去したガボンのボンゴは42年間(これも現在はその息子が大統領)、旧ザイールのモブツは32年間、ケニアのモイは24年間・・・ちょっと想像を絶する世界です。

アフリカでは、多くの大統領が憲法の多選禁止規定を撤廃して大統領職を続けているわけです。これがアフリカのガバナンスの大きな問題点と言われています。

その中で、稀有な例として知られるのが、マリのアマドゥ・トゥマニ・トゥーレ(通称ATT(アーテーテー))。ATTは、1991年に軍人として軍事クーデターを起こし独裁政権を倒し、暫定政権の元首に就任しますが、1年後に選挙を実施して民政移管を実現、潔く身を退きました。その後、退役して政治家となり、2002年には選挙で選ばれて大統領に就任します。そして、安定した統治を実現し、アフリカを代表する偉大なリーダーとして尊敬を集めました。

私は2011年にマリを訪問し、市井の一般人から有識者まで幅広く話を聞きましたが、ATTのことを悪く言う人は一人もいませんでした。ところが、その1年後の2012年に突然クーデターが発生。ATTは亡命を余儀なくされました。自分の訪問後のわずか1年後に発生したこの事態・・・アフリカ政治の難しさを実感した思い出です。

そんなわけで、本日は軽めの雑談的な話になりました。金曜らしくていいですね。暑いですが、あと一日がんばりましょう。良い週末をお過ごし下さい。

メルマガ「世界情勢ブリーフィング」を購読するためにはご登録のお手続きが必要です。

当社に無断で複製または転送することは、著作権の侵害にあたります。民法の損害賠償責任に問われ、著作権法第119条により罰せられますのでご注意ください。

One comment on “オバマ大統領のアフリカ訪問
  1. ペルドン より
    オバマの自信過剰とジョークのセンスが冴え

    聴き手・・同じ水準かどうか・・
    聴いていて・・虚しさ・・
    故郷に錦を飾る・・にしても・・

    どんな図書館が創られるか・・興味津々・・・(笑

コメントを書く

* が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

いただいたコメントは、チェックしたのち公開されますので、すぐには表示されません。
ご了承のうえ、ご利用ください。