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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2018/03/05 00:00  | 今週の動き |  コメント(3)

今週の動き(3/5〜11)


台風のような嵐が来たと思ったら、一転して午後には快晴になり、すっかり春が来たようでしたね。花粉症の季節も始まりましたが・・。

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先週の動き
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2/25(日)
・平昌五輪最終日
・文在寅大統領が北朝鮮の金英哲朝鮮労働党副委員長ら高官代表団と会談(平昌)
・イヴァンカ大統領補佐官が平昌五輪の閉会式に出席(同)
・中国共産党中央委員会が国家主席の任期制限を削除する憲法改正案を提案したと新華社が報道
・NAFTA再交渉会合(メキシコシティ、~3/5)
・カンボジア上院選挙

2/26(月)
・トランプ大統領が「適切な環境の下でなら北朝鮮との対話を望む」と発言
・国務省がジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表が3月2日に退任すると発表
・サウジのサルマン国王が軍の最高幹部らを解任するなど大規模な人事異動を実施
・3中全会(北京、〜28日)
・ドイツの第1党CDU党大会
・EU外相理事会(ブリュッセル)

2/27(火)
・パウエルFRB議長が下院で議会証言
・クシュナー大統領上級顧問の「最高機密」へのアクセスが遮断されたと報道
・米商務省が中国から輸入するアルミニウム箔に最大106%の関税を課す方針を発表
・トランプ大統領が20年の大統領選の選挙対策本部長にブラッド・パースケール氏を指名したと発表
・劉鶴中央政治局委員が訪米(~3月3日)
・シリア首都近郊でロシア提案の時限停戦が開始
・EU非公式外相会合(ソフィア)
・EU総務理事会(ブリュッセル)

2/28(水)
・ホワイトハウスのホープ・ヒックス広報部長が辞任を発表
・USTRが通商政策報告書を議会に提出
・トランプ大統領がロシアゲートをめぐる捜査の手法に不適切な点があったと共和党議員が主張している問題で、セッションズ司法長官がこの問題の調査を監察官に任せたことを批判
・トランプ大統領が銃規制強化法案の通過を議員に要請
・米議会が台湾旅行法を可決
・アフガニスタンのガニ大統領がタリバンを合法的な政党として認める用意があると発表

3/1(木)
・パウエルFBB議長が上院で議会証言
・米韓電話首脳会談
・プーチン大統領が年次教書演説
・文在寅大統領が抗日独立記念日で演説
・カタルーニャ州のプチデモン前州首相が次期州首相就任の断念を表明
・ASEAN経済相会合(シンガポール、~2日)

3/2(金)
・英国のメイ首相がEU離脱方針に関する演説

3/3(土)
・パキスタン上院選挙

3/4(日)
・イタリア総選挙
・ドイツのSPD党員投票の結果発表
・サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子がエジプト、英国、米国を訪問
・アカデミー賞授賞式(ハリウッド)

米国、ロシア、中国、サウジ、そしてカンボジアで権力者の強権発動があり、欧州では選挙があり・・世界でも嵐が吹き荒れた一週間でした。

●トランプ政権の貿易戦争と新たなる混沌の始まり

以下の記事で、3月1日にトランプ大統領が通商拡大法232条に基づく決定を発表する可能性があると指摘していましたが、当日は業界関係者との会合は実施されたものの、「リスニング・セッション」にとどめ、決定の発表は今週に見送られることになりました。その背景には、記事で解説したとおり、グローバリストと軍人組の強い反対があったと言われています。

「トランプ政権の新たなる混沌と貿易戦争(1)」(3/2)

ところが、トランプは、記者からの質問に答えるかたちで、鉄鋼に25%、アルミに10%の追加関税を課すと発言。国内外で衝撃が走りました。

正式発表は今週の予定であり、いまだ状況は流動的です。トランプの発言後、株価が急落しましたが、これもトランプの判断に影響を与える可能性があります。

また、前回の記事で述べたとおり、今回の突然の発表の背景には3月13日に予定されるペンシルバニア州補選があるとみられますが、共和党の議員からは今回の発表に対する懸念や批判が出ています。

とはいえ、発言どおりの正式発表がなされる可能性は高い・・とみるのが合理的でしょう。翌日にはロス商務長官が追加関税は全輸入国に課されるべきと考えているかのように聞こえる発言をしています。税率、品目、対象国にわずかな修正はあるかもしれませんが、基本方針に変更はないでしょう。

貿易戦争の背後では、ナショナリストとグローバリストの間での熾烈な争いがあり、これに新たに生じつつある政権の混沌が加わっています。

先月、以下の記事で述べたとおり、ロブ・ポーター大統領秘書官の辞任とジョン・ケリー首席補佐官の責任問題の浮上がありました。

「ホワイトハウス高官の辞任」(2/12)

そして、先週は、ホープ・ヒックスの広報部長辞任、ジャレッド・クシュナーの権限喪失・・とさらにややこしい動きが起きています。

こうした貿易戦争と政権で起こっている新たな混沌の始まりについて、今週解説します。

●パウエルFRB議長の証言

これはぐっちーさんにお任せですね(笑)。

●プーチンの年次教書演説

年次教書演説は例年12月に行われますが、今回は延期して異例のタイミングに行われました。色々な理由が推測されていますが、最大の狙いは3月18日に予定される大統領選に向けたアピールとみられます。

経済問題よりも、ICBMや新型兵器の開発など、国威を発揚する発言が目立ちました。ロシアではこのようなナショナリズムの喚起が我々が思う以上に大きな効果を発揮します。

ちなみに先週は大統領選の候補者のテレビ討論会も行われました。この討論会が、暴言、中傷、口喧嘩が炸裂し、怒って水をかけるなど(笑)とんでもないものでした。

もちろんこんな茶番に「ツァーリ(皇帝)」プーチンは参加しません(笑)。プーチンの支持率は70%に上っており、その勝利に疑いはありませんが、こうして他の候補者のレベルの低さが明らかになったことは、再任後の地位の安定にも貢献するでしょう。

ロシア政治の見方と展望については大統領選後に解説します。

●中国の国家主席の任期撤廃

こちらはロシアではなく中国の「皇帝」に関するニュース。

国家主席の2期限定を撤廃する方針とのこと。報道ベースですが、中国メディアの発信は事実上党・政府の発信なので、これが実現することは間違いありません。

公表のタイミングは本日から開幕する全人代に合わせたのでしょう。先週、突然に3中全会が行われましたが、極めて異例のタイミングでした。全人代で憲法改正はじめ様々な異例の措置を検討・調整する必要があったので、このような日程になったとみられます。

以下の記事で述べたとおり、昨年の中国共産党大会では、習近平の後継者が明らかにならず、3期続ける可能性が十分にあることが示唆されました。

「習近平体制2期目(1):「皇帝」の誕生」(17/10/31)

国家主席の任期撤廃は、当然のことながら続投路線を強く印象付けるものになります。

その意味するところは今週、別稿で解説します。

●サウジの人事異動

次にサウジで「帝王」の道を歩むムハンマド・ビン・サルマン(MbS)皇太子に関するニュース。

サウジでは、軍の最高幹部を含む大規模な人事異動が行われました。

軍の幹部交代の背景にあるのは、まずイエメン内戦の泥沼化の責任をとらせたとみられます。以下の記事で述べたとおり、イエメン内戦は「MbSの戦争」だからです。

「サウジアラビアの新時代(2)」(17/10/4)
「トランプ政権のパワーポリティクス(1)」(17/4/4)

また、世界3~4位の軍事費をつぎ込みながら、それに見合った実力がない軍の改革を目指すという考えもあるようです。

軍以外でも、MbSらしさを示唆する人事が見受けられます。たとえば女性を副大臣・次官に起用しています。これは初めてではないのですが、当然のことながら保守的なサウジではとても珍しいことです。女性の社会進出を重視するMbSの志向が影響していることは間違いないでしょう。

なお、最近、サウジ政府はエンタメ産業を活性化すべく巨額の投資を行っており、今年はコンサートなどのイベントを積極的に実施するそうです。こうした社会変革の動きは以下の記事で述べましたが、さらに加速しており、サウジはどこまで変貌するのだろうかとちょっと不安になるほどです。

「サウジアラビアの新時代(1)」(17/10/3)
「サウジの文化改革」(17/12/18)

このように、今回の人事は、MbSの志向に沿ったもので、彼が力をふるいやすい体制にするという狙いが見てとれます。いよいよ王位継承が近づいていることを示唆する動きです。

なお、MbSは、今週末からエジプト、英国、米国を訪問します。皇太子になってから初めての外遊になります。

「ムハンマド・ビン・サルマンの皇太子就任」(17/6/23)

これも王位継承に向けた準備かもしれません。

●カンボジア選挙と欧米の制裁

さらにカンボジアの「帝王」ともいえる独裁者フン・セン首相に関するニュース。

カンボジアでは2月25日に上院選が実施されましたが、与党人民党が改選議席を全て獲得しました。これは、昨年11月、最大野党の救国党が国家反逆を企てたという理由で解党されたためです。こうした強権的な動きは以下の記事で解説していました。

「カンボジアの強権政治と米中との関係」(17/10/12)

これを受けて、先週、米国がカンボジアへの援助の一部を中止・削減しました。また、EUは、先週に開かれた外相理事会において、制裁の検討を表明しています。

カンボジアの主力産業は縫製品で、その大部分は欧米に輸出しています。これは、欧米が一般特恵関税(GSP)をカンボジアに付与していることが大きいのですが、民主主義を抑圧する状況が続けば、GSPは停止されることになるでしょう。カンボジアにとっては大きな痛手になります。

しかし、フン・センは、中国からの資金を当てにして、欧米の制裁措置を軽視している節が見えます。こうした中国の内政不干渉と資金の投入がアジアの民主主義の退行を促していることは上記記事と以下の記事で述べたとおりです。

「中国のインフラ外交(1)/(2)」(17/11/29・30)

なお、中国のカンボジア進出を象徴する場所が南部の港湾都市シアヌークビルです。

ここは中国が開発した港湾と経済特区があります。マカオのごとく中国企業がカジノを建設し、大勢の中国人観光客が押し寄せています。最近では中国人の犯罪発生などもあり、地方政府が中国進出の問題点を公然と指摘するようになっています。

●欧州の選挙

イタリアの総選挙とドイツの党員投票(昨年9月の総選挙の結果から導かれたもの)というビッグイベント。結果を見た上で、欧州のポピュリズムの見方とともに解説します。

●政府発行の仮想通貨

2月20日にベネズエラ政府が仮想通貨ペトロのプレセールを開始しましたが、イランとトルコも仮想通貨の発行を検討しているようです。

さらに、報道によれば、英国、イスラエル、シンガポール、UAEなども発行を検討しているとのこと。どこまで真剣か分かりませんが、あちこちで政府の検討が本格化しつつあるようです。

ベネズエラは現在、政治的にも経済的にも末期的な状況にあるので、窮余の一策として理解できます。制裁を迂回するねらいもあり、イランや北朝鮮が続いても不思議はありません。ただ、報道によれば先進国を含むまっとうな国も検討を始めているようで、このへんはこれからきちんとフォローする必要がありそうです。

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今週の動き
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3/5(月)
・全人代開幕(北京)
・米・イスラエル首脳会談(ワシントンDC)
・DACAの議会立法猶予期限

3/8(木)
・TPP署名式(サンティアゴ)
・ECB定例理事会(フランクフルト)

3/9(金)
・平昌パラリンピック(平昌、~18日)

3/11(日)
・チリ大統領就任式(サンティアゴ)
・香港立法会補選

(今週のどこか)
・トランプ大統領が通商拡大法232条に基づく鉄鋼とアルミの輸入制限について正式決定

●全人代

上記「先週の動き」で述べたとおりです。これで習近平体制が本格的に固まることになります。

●DACAの失効

トランプは昨年9月に6か月の猶予期限をつけてDACAの撤廃を宣言していました。

「DACAの撤廃」(17/9/11)

その期限は3月5日に到来します。

しかし、連邦地裁はDACA撤廃を差し止める判決を下し、その効力は維持される状態になりました。これに対してトランプは最高裁での審理を求めていましたが、2月26日、トランプの請求は認められないという判断が下されました。これにより効力の維持は継続します。

ただし、新規申請者には救済措置(退去延期)が認められないようであり、不安定と混乱を招く部分が残っています。

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あとがき
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ナシーム・タレブ『反脆弱性』を読みました。

今ではマーケット業界にも定着している「ブラック・スワン」を流行らせた著者が放った新たな世界的ベストセラー。常識を覆すという点では『サピエンス全史』に通じる面白さがあります。

『ブラック・スワン』に面白さを感じた人であれば楽しめるでしょう。ただ、前作と比べると、理論的考察よりもライフ・ハック的な話が多く、違和感や物足りなさを感じる人もいるかもしれません。もっとも著者は机上の空論より実践(「反脆弱性」の重要な要素)を大事にしているので、それは著者の意図するところなのでしょう。

ドヤ顔の自慢話が鼻につくところがありますが、筋トレの部分は、私が実践している方法とかなりの部分通じるところがあって驚きました。私のトレーニング法は以下の記事を参照ください。

「忙しい人向けのトレーニング・フィットネス」(17/9/15)

あと、トランプ政権が巻き起こす混乱も、「反脆弱性」を鍛えるための一つの修行と考えれば、前向きになれるかもしれません(笑)。これはまんざら冗談でもなく、ときどき波乱が起きた方が、その対処の仕方を考えるようになるので、長期的に見ればプラスになる・・ということも一面の真実です。基礎と構造が強ければ短期的なダメージを恐れる必要はないので、その意味では、やはり米国もファンダメンタルの強さを正当に評価すべきでしょう。

なお、『ブラック・スワン』は、アンリ・ポアンカレの四部作(『科学と仮説』『科学の価値』『科学の方法』『晩年の思想』)の良い導入本にもなります。

ポアンカレは、数学(トポロジーを確立、「現代数学の父」ダフィット・ヒルベルトと激突)と物理学(相対論と量子論を予想)において歴史的な業績を残した、まぎれもなく人類史上最高の知性の一人ですが、彼は、科学哲学、認識論、知識の哲学、論理学においても、あのバートランド・ラッセル、そして現代においてもタレブを驚愕させるほど徹底した懐疑主義・経験主義を展開していました。その四部作、特に『科学と仮説』には、今読んでも色あせない知的興奮が詰まっています。

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3 comments on “今週の動き(3/5〜11)
  1. ぺルドン より
    やれやれ・・

    JDが箇条書きしてくれたら・・
    結構な一週間と分かった・・
    その上に・・
    アンリ・ポアンカレを読めって・!
    ずっと無意識に避けていたのに・!
    ラッセルも出てきた・・
    彼の女狂いの凄まじさは・・哲学を越えるものだった・・
    JDも見習ってみる・?!・・・
    ( ^ω^)・(笑

  2. 牧神の午後 より
    日銀による暗号通貨の取組

    日銀レビュー 2016年11月
    中央銀行発行デジタル通貨について
    ー海外における議論と実証実験 ―

    ECBと共同した技術検証
    Project Stella
    最初の報告
    http://www.boj.or.jp/announcements/release_2017/rel170906a.htm/

  3. 下北のねこ より
    半島統一へ

    文在寅さんも金正恩さんも目指すところは自分の代での朝鮮半島統一国家だと思います。特に金正恩さんは、南北統一できれば、国民が飢えから救われるだけじゃなく、その功績を歴史に刻まれ、今までの自分の悪行も堂々と免責でチャラだろうし、言うことなしなんて夢見たりするかも。(前の大統領を訴追することが常態化している韓国はその点、全く甘くないでしょうが。)

    お父さんの金正日さんも、息子の金正恩さんも左派政権が出来るのを待ってそのタイミングで平和攻勢に出てるんでしょうね。
    韓国・朝鮮人って、接待饗応はとても上手な民族だと思いますが、朴槿恵さんや、李明博さんは金正恩へのアピールに今、生贄に供せられてるように見えます。いずれにせよ、今回は金正恩さんにとって、満額回答だったんでしょうね。
    自分のことしか考えないトランプさんを相手にするより、楽で成果も大きいです。半島情勢がどう進んでいくのか興味があります。
    なんだかんだ言っても、統一はしてほしいなあ。豊かで強力な国に囲まれてるのに国民は飢えている北朝鮮のような変な国家見たくないもん。

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