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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2018/02/26 00:00  | 今週の動き |  コメント(3)

今週の動き(2/26〜3/4)


先週は久しぶりに雪が降り、大変な寒さでしたが、もう2月も終わり。春も近いですね。

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先週の動き
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2/18(日)
・シリアのクルド勢力(PYD)がトルコ軍に対抗するためアサド政権と協力すると発表

2/19(月)
・ロシアのラブロフ外相が米国に対しシリアのクルド支援をやめるように警告
・ユーロ圏財務相会合(ブリュッセル)

2/20(火)
・アサド政権軍がアフリンに入りトルコ軍がこれを砲撃したと報道
・アサド政権軍が反体制派が支配するダマスカス郊外の東グータで空爆
・ロシア外務省がシリアでの米軍による空爆で多数のロシア人が死傷したと発表
・モラー特別検察官がロシアゲートで起訴されたゲーツ氏とのやりとりに関する虚偽供述容疑でアレックス・バンデルズワン弁護士を起訴したと米メディアが報道
・米政府が平昌五輪の開会式に出席したペンス米副大統領と北朝鮮代表団の会談が予定されていたが北朝鮮側が直前にキャンセルしたと発表
・トランプ米大統領が銃改造部品「バンプストック」の禁止を指示
・ドイツのSPDが連立政権入りの是非を問う党員投票を開始(〜3/2)

2/21(水)
・トランプ大統領がフロリダ州の高校での銃乱射事件を受け、教師の武装化が大量殺人の防止につながるとの見解を示す
・トランプ大統領が国内大手労組のトップらと会談
・トランプ大統領が「大統領経済報告」を議会に提出

2/22(木)
・モラー特別検察官がマナフォート元選対本部長とゲーツ元幹部を脱税など32の罪で追起訴したと発表
・ペンス副大統領が保守政治活動会議(CPAC)の年次総会で北朝鮮の金与正を非難(メリーランド州)

2/23(金)
・トランプ政権が北朝鮮に対する大規模な追加制裁を発表
・トランプ政権がイスラエルの米大使館を5月にエルサレムに移転すると発表
・米豪首脳会談(ワシントンDC)
・豪州のジョイス副首相が元側近との不倫報道が続く中で辞任

2/25(土)
・NAFTA再交渉会合(メキシコシティ、〜3/5)
・平昌五輪最終日

●北朝鮮

平昌五輪が終了しましたが、これに先立ち、米国では北朝鮮に圧力をかける動きが相次ぎました。

まず、ペンス副大統領が北朝鮮との接触を考えていたがドタキャンされたという発表。これ自体は大した話ではないですが、わざわざ公表することには何がしかの意図を感じさせます。おそらく北朝鮮に対して米国がフラストレーションを感じていることを公然と伝えるとともに、韓国に対して対話が進まないのは北朝鮮の責任であることを示す狙いがあるのでしょう。

この後、ペンスは会談相手になる可能性があった金与正を「最も専制的で抑圧的な政権の中心」として強く非難しました。保守派の一大政治イベントであるCPACでのパフォーマンスであり、また米国メディアの金与正に対する好意的な報道に釘を刺す意図もあったかもしれず、これまた単独では特筆すべき発言ではありません。ただ、上記発言直後というタイミングを考えると、北朝鮮へのフラストレーションを重ねて強調する狙いがあったとみられます。

さらに、追加制裁の発表。以下の記事で述べたとおり、制裁を強化し継続することは既定路線であり、これ自体も驚くような内容ではありません。

「平昌五輪と北朝鮮」(2/8)

ただ、この前には上記ペンスの発言、この後(平昌パラリンピックが終了する3月18日より後)には米韓合同軍事演習の再開が控え、これら一連の動きをみると、平昌五輪での韓国の対話外交と北朝鮮の揺さぶりをふまえて、政権が次の段階に踏み込もうとしているプロセスにあることを示唆しているようにも見えます。これから先、さらに細かいフォローが必要になります。

●フロリダ銃乱射事件

先々週に起こったフロリダでのスクール・シューティングは、生存者の学生たちの積極的な行動(トランプ大統領とも面会)もあり、先週も引き続き、米国内では大きな注目を集める社会問題となりました。

トランプの教師の武装を促す発言は、常軌を逸した発言のように見えるかもしれませんが、これは全米ライフル協会(NRA)がかねてから主張しており、ある意味で米国の銃所持肯定派の哲学を象徴するものです。それは、自分の身は自分で守るという自衛の精神であり、また、力ある者はその家族を守るという正義の価値観です。

こうした考え方があるので、銃の所持は「やむを得ない」という必要悪ではなく、むしろ自助努力と大切な人を守るための重要な行動という、美徳ともいえる感覚が共有されます。銃規制が「文化戦争」といわれる所以です。

トランプの発言はたしかに常軌を逸したものとして受け止められていますが、それは「大統領が言ってはまずいだろう」という理由であって、その考え方自体はそれほど違和感を持って受け止められるものではないのです。こういう文化的背景が米国の分かりにくいところであり、これが分からないとトランプの発言も今起こっている騒動の意味も理解できません。

バンプストックの禁止はまっとうな発言ですが、これも新しい話ではありません。バンプストックは銃所持肯定派の間でも評判が悪いのですが、問題は、これを規制するには行政措置ではなく立法が求められることです。規制を支持する議員は相当多数に上るはずですが、実際に法案が審議されると、銃規制反対派は、この規制を認める代わりに何か規制を緩和する措置を要求するため、審議が難航します。法案が取引材料となることに問題の難しさがあります。

このように、乱射事件のような悲劇が繰り返されても銃規制は進まず、かえって文化戦争によって断絶が深まるというのがこれまでのパターンであり、今回も、これだけ論争が起こっても、やはり見通しは暗いと思います。

ただ、生存者の学生をはじめとする若者のムーブメントはこれまでになかった動きとして評価する向きがあります。こうした若者たちは「スクール・シューティング・ジェネレーション」を自称していますが、おそらくこの感覚は大多数の米国の若い世代に共有されています。時間はかかるでしょうが、世代交代が一つの注目すべき要素であり、今回の事件がその点を明らかにしたことは意義深いと考えることができます。

●米国大使館のエルサレム移転

先月のペンス副大統領のイスラエル訪問を経て、イスラエルの建国記念日である5月14日に合わせてスケジュールが早まりましたが、以下の記事で説明したとおり、今回の米国の動きに中東を不安定化するほど大きなインパクトがあるとは考えられません。

「米国のエルサレム首都認定(3):影響」(17/12/14)
「米国のエルサレム首都認定(補足):クシュナーとサウジ皇太子」(17/12/20)

とはいえ、アラブ諸国はトランプ政権の不規則な動きに戸惑い、不信感を抱くようになっています。それは最大の同盟国サウジも例外ではありません。サウジは、カタールの断交に対しても、ティラーソン国務長官の仲介外交はじめ米国のどっちつかずの動きに苛立ちを感じています。

そうした中で、最近、サウジとロシアの接近が顕著になっています。

もともとサウジとロシアは歴史的に関係が悪く、冷戦時代はサウジの原油増産がソ連崩壊の最大の原因になったとも言われました。それが最近は15年にムハンマド・ビン・サルマン(MbS)皇太子、昨年10月にはサルマン国王のロシア訪問が実現したように、これまでになくハイレベルの交流が活発化し、LNG開発、原子力開発、武器供与など政治経済面での協力が拡大しています。

「今週の動き(10/9~15)」(17/10/9)

きっかけになったのは15年のイラン核合意とMbSの台頭ですが、構造的な要因として、両国とも原油の下落を抑えることに共通の利益を有していることがあります。両国は16年12月から協調減産を続けています。

サウジは安全保障面で米国に深く依存しており、米国との関係を犠牲にしてロシアに傾斜することはあり得ません。しかし、大国サウジのバランス外交は中東の秩序に一定の影響を及ぼします。こうした最近の動向をどう見るかはタイミングをみて取り上げます。

●シリアとトルコの激突の危機

「イスラム国」が駆逐されたシリアで混迷が深まっています。

トルコがシリア北西部アフリンのクルド(PYD)を攻撃した背景については以下の記事で解説しましたが、今度はPYDとシリアのアサド政権が連携を発表。

「トルコによるシリアのクルド攻撃」(1/30)

そして、アサド政権がクルドを支援するため軍(民兵)を派遣したところ、これをトルコが砲撃で牽制。シリアとトルコの直接衝突まで一歩手前の状況に至りました。

さらに、この混乱に米国とロシアが関与し、より複雑かつ予測不能になっています。ロシアと米国が直接衝突する危険も生じつつあります。

今週は、複雑極まるシリア情勢とそれが世界的リスクに発展する可能性について解説します。

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今週の動き
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2/26(月)
・ドイツの第1党CDU党大会
・EU外相理事会(ブリュッセル)

2/27(火)
・パウエルFRB議長が下院で議会証言
・非公式EU外相会合(ソフィア)
・EU総務理事会(ブリュッセル)

3/1(木)
・プーチン大統領が年次教書演説
・パウエルFBB議長が上院で議会証言
・抗日独立記念日で文在寅大統領が演説
・ASEAN経済相会合(シンガポール、~2日)

3/3(土)
・パキスタン上院選挙

3/4(日)
・イタリア総選挙
・ドイツのSPD党員投票の結果発表

●パキスタン選挙

パキスタンの上院選挙は州議会議員による間接選挙のため、与党PML-Nが勝利するとみられます。この機会に、結果を見た上で、パキスタン政治の見方を説明します。

●イタリア選挙

こちらも、結果を見た上で、イタリアを含む欧州を席巻するポピュリズムの読み解き方を説明します。

●ドイツの連立合意

先週述べたとおり、SPDの党員投票の結果がメルケル政権の命運を握ります。

「今週の動き(2/19~25)」(2/19)

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あとがき
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先週は、米国の伝道師ビリー・グラハム、俳優の大杉漣氏、音楽学者の礒山雅氏の訃報がありました。

ビリー・グラハムは、エヴァンジェリカル(福音派)の代表格、テレヴァンジェリスト(メディアを通じて伝道を行う宗教家)の先駆けで、米国で最も影響力をもつ宗教保守指導者の一人でした。

エヴァンジェリカル、テレヴァンジェリストというと、このグラハム、ジェリー・ファルウェル(07年死去)、パット・ロバートソンの名前が挙がりますが、その中でも、歴代大統領や外国要人との交流といった活動の幅広さもあり、最も王道をいくイメージがありました。

このメルマガでは、グラハムの息子のフランクリン・グラハムがアラバマ州上院補選でロイ・ムーア候補を支持していたことに言及していました。

「今週の動き(11/20~26)」(17/11/20)

また、エヴァンジェリカルについては以下の記事で解説しました。

「米国のエルサレム首都認定(1):背景」(17/12/12)

大杉漣さんは数多くの作品に出ていますが、やはり北野武作品、特に『ソナチネ』での存在感が印象に残りますね。

礒山雅さんはバッハの研究者ですが、著書『マタイ受難曲』は楽曲のみならず聖書の理解を深める上で非常に有益な一冊で、私は何度も読み返しています。

ご冥福をお祈りします。

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3 comments on “今週の動き(2/26〜3/4)
  1. ぺルドン より
    「スクール・シューティング・ジェネレーション」

    10年後・・
    20年後・・
    団塊世代同様・・
    認識の象徴になるのか・・・
    ベット・シューティング・ジェネレーション・・
    って無いのかな・?・・・
    ( ^ω^)・・(笑

  2. KB より
    イバンカさん

    今回、トランプ大統領と面会をした世代が選挙権を持った時に、一つの議論の柱になっていくのでしょうか。
    日本にいてはなかなか本質が理解しづらい「銃規制」について、このように米国人の倫理観、価値観とともに説明していただくと、理解が進みます。

    それにしても、イバンカさんがあの美しいお顔で文大統領に「maximum pressure」と言ったときには、お父さんの顔がチラつきました。こちらも引き続き”細かいフォロー”をお願いします!

  3. 下北のねこ より
    将来の大統領

    スクール・シューティング・ジェネレーション・ムーブメントの中から、民主党系の大統領や上院議員が出るんだろうなあ。

    マレーシアやタイの記事を見ると貧乏旅行してた時代が懐かしくなります。
    マレーシアでは、プロトンという国民車の三菱自動車が走り回り、同じように韓国で現代自動車という名の三菱自動車が走り回っていて、三菱って偉いなあって本気で思ってました。
    政治では、マハディール首相が、マレー人優遇政策を敷き、そうしないと全部中国人に仕事取られちゃうからって、中国系の人たちも受け入れていたのが印象的でした。
    タイはともかくあの偉大なプミポーン国王。クーデターや軍との衝突が普通に起こっても水戸黄門の如く、国王陛下が出てきて元の鞘に収まる不思議な国でした。国王のことを茶化したら、ガイドさんに真面目に怒られたのが思い出に残ってます。
    今のバカボン国王は無事務まっているのかなあ?
    お父様が、軍に入れて道を作ってくれたけど、本人の資質がちょっと怖い。

    だけど、マハティールさんの再登場とか、習近平さんの皇帝化とか、フン・センさんがまだやってたりとか(顔はすっかり色艶の良いカバ顔になっちゃったけど)、アジアは時計が逆回転してますね。
    習近平さんは、子どものころの指導層に対する印象が心の底に染み付いているんでしょうね。あと、今やめるには早すぎると思ってるんでしょうし。

    そろそろAIを活用した、完全リアルタイム携帯音声自動翻訳器出ないかなあ。
    ガイドさんなしで食堂での注文や値切り交渉が日本語で普通にできるとありがたいんだけど。

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