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2015/12/28 00:01  | 東南アジア |  コメント(2)

米・ASEAN首脳会議の提案 - オバマ政権のレガシー


米・ASEAN、来年早期に加州サニーランズで首脳会議開催へ(12月24日付ロイター記事)

これはなかなか面白いニュースですね。米国がASEAN首脳を米国本土にわざわざ招くというのは聞いたことがありません。おそらく初の試みではないかと思います。

ASEANの首脳会議は、毎年11月か12月に行われます。今年も11月19日~21日にクアラルンプールで開催され、ASEAN共同体発足宣言が発出されました。なお、APECはその直前の11月18日~19日にマニラで行われており、ASEAN首脳はこの二つの会議を連続してハシゴしています。

この毎年開催されるASEAN首脳会議には、日本、中国、韓国、米国といった域外国が招待され、日・ASEAN首脳会議、ASEAN+3首脳会議、東アジアサミットが行われ、総理が出席するのが通例です。米国も、毎年、東アジアサミットに参加しており、昨年11月の会議にはオバマ大統領が出席しています。

しかし、2013年、オバマ大統領は、連邦政府閉鎖問題への対応に追われたため、ブルネイでのASEAN首脳会議、インドネシアでのAPECの両方に欠席しました。内政事情のため致し方なかったのでしょうが、異例のキャンセルであったため、当時、米国のコミットメントの低下の現れであるとして、大きな波紋を呼びました。

このため、オバマ政権は、「Pivot to Asia」「Rebalancing」などといって、欧州や中東よりもアジアに重点をシフトすると言いながらも、実行が伴っていない、ASEANに冷たいという印象がありました。それが今回の提案。米国とASEANを長年ウォッチしてきた者としては興味深い企画です。

基本的に、米国務省内でのASEAN担当部局の力は強くありません。国務省の組織図にある「東アジア太平洋局(EAP)」の一部門ですが、EAPの中ではやはり日本、中国、韓国のデスクが重きをなし、ASEANデスクは二の次になってしまいます。その中で、こうした米国からのイニシアチブを打ち出すにはそれなりの理由が必要になります。

背景にあるのは、まず南シナ海領有権問題とTPPでしょう。これらは直近の問題として誰もが思い浮かぶところです。

また、このところギクシャクしているタイとの関係への配慮もあると思います。昨年5月のクーデターを米国は非難し、軍事支援・軍事交流を停止しました。毎年行われている多国間軍事演習「コブラ・ゴールド」は予定どおり実施されましたが、規模は縮小され、それ以来、両国は関係改善の努力を続けながらも、最近ではデービーズ駐タイ大使に対して不敬罪の嫌疑がかけられるなど、不安定な状況が続いています。

その間に中国がタイとの経済関係を一層深化させています。こうした状況にかんがみ、首脳レベルでの交流を通じて関係の改善の一歩としたいという考えもあるでしょう。

しかし、それ以上に大きな視点として注目したいのは、オバマ大統領のレガシー作りの志向です。オバマ大統領は、19日のラジオ演説で、「2015年の出来事ベスト10」を発表しました。大統領がこんなことをやるのはあまり聞いたことがありませんが、そこで挙げられたのは以下の10点。

①米国民の団結
②同性婚の合法化
③2016年度歳出法案成立
TPP締結
⑤「イスラム国」掃討作戦
イラン核合意
キューバとの国交正常化
⑧気候変動問題に関する国際的な合意
⑨オバマケアの利用者拡大
⑩経済成長と雇用創出

レガシー・リストを自分で作っちゃった、という趣ですね(笑)。超大国である米国は、自身のイニシアチブによっていかようにも国際秩序を変えることができるので、一般的に外交はレガシー作りの素材として向いているといえます。

しかも、大統領二期目は、その前の中間選挙で敗北するケースが多く、その場合、内政では大きな実績を作りにくい状況になります。オバマ政権も、イラン、キューバ、TPP、COP21で成果を上げて、次は・・・と考えるのも十分にあり得ることであり、国務省としても、大統領の関心が高まっているところで、大統領のイニシアチブという大きなリソースをどこに投入すべきか、積極的に考える余地が出てくるわけです。そういう一環として今回の首脳会談の仕掛けがあると考えられます。

来年は大統領最後の年ということで、ますます外交に熱意がこもるでしょうが、中東には迂闊に手を出せませんし(ネタニヤフ首相との関係は最悪、「イスラム国」も地上軍投入はオプションになく、決め手に欠く状況)、核廃絶(伊勢志摩サミットでの広島・長崎訪問)も難しく、これらに比べると東アジアはかなり取り組みやすい地域といえます。そういう意味で、TPP、南シナ海、ASEANに限らず、来年の米国の対アジア外交は結構期待できるかもしれません。

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2 comments on “米・ASEAN首脳会議の提案 - オバマ政権のレガシー
  1. ペルドン より
    結構期待・・

    つまり・・
    オバマ・・足元を見られている・・・(笑

  2. JD より
    ペルドンさん

    足元を見られるといいですね。

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