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2015/09/25 00:00  | 東南アジア |  コメント(1)

インドネシアの内閣改造


「安保法制と法学者の役割」の記事には沢山のコメントをいただきました。どうもありがとうございます。

いずれのご意見も内容が濃く、色々と考えさせられるものがありました。私なりの回答を示したいと思うのですが、連休が終わってあわただしくなった上、一昨日からネコが2匹来て、その世話に追われています・・皆さんと対話をしたい気持ちは山々ですので、しばしお待ち下さい。

さて、対話ということで、まずは、少し前の「インドネシア高速鉄道計画の中止」の記事にいただいたコメントに対してお答えします。

【質問】
8月の内閣改造はどのような背景から行われたのでしょう。
知日派といわれているラフマット貿易相の退任がまさに(日本からの輸出、規制緩和が進まなくなる等)気になるところです。

【回答】
8月12日に行われたインドネシア・ジョコ政権の内閣改造についてのおたずねですね。

インドネシア内閣改造 経済閣僚4人を入れ替え(8月12日付日経記事)

記事にもあるとおり、今回交代したのは経済閣僚4人を含む6人の閣僚です。

①調整大臣(政治・法務・治安担当) テジョ・エディ・プルディヤトノ →ルフット・パンジャイタン
②調整大臣(経済担当) ソフヤン・ジャリル →ダルミン・ナスチオン
③調整大臣(海事担当) インドロヨノ・スシロ →リザル・ラムリ
④国家開発企画庁(BAPENAS)長官 アンドリノフ・チャニゴ →ソフヤン・ジャリル
⑤貿易大臣 ラフマット・ゴーベル →トマス・レンボン
⑥内閣官房長官 アンディ・ウィジャヤント →プラモノ・アヌン

まず、交代の背景にあったのは、①経済停滞を理由とする経済閣僚(特にソフヤン・ジャリル調整大臣)に対する批判と②与党闘争民主党からの大統領側近(特にアンディ・ウィジャヤント内閣官房長官、ルフット・パンジャイタン大統領首席補佐官、リニ・スマルノ国営企業大臣)に対する批判の高まりです。これは私も、4月にジャカルタに行ったときから現地で聞いていました。

これにジョコ大統領はどう対応したのか。まず、①経済閣僚については、上記のとおり、ジャリル調整大臣、スシロ調整大臣、チャニゴBAPENAS長官、ゴーベル貿易大臣を交代させました。

後任のダルミン(元中銀総裁)とラムリ(元調整大臣、財務大臣)はインドネシアを代表する経済通として従来より国内外で高く評価されています。特にダルミンは、インドネシア最高の経済専門家と言われるスリ・ムルヤニ世銀理事(元財務大臣)の後継者ともいえるインドネシアきっての人材で、待望の就任といえます。ラムリの活躍については、前の記事で述べたとおりです。

レンボンは、ハーバード大を出て、モルガンスタンレー勤務経験もある国際肌の実業家で、自由貿易を積極的に推進することが期待されています。ジャリルは、上記のとおり評判が悪かった人ですが、実力者であるユスフ・カラ副大統領の腹心であるため、調整大臣からは降ろさせたものの、BAPENAS長官に横滑り就任させることで閣内に残しました。政治的妥協の結果といえますが、調整大臣(経済担当)ポストという司令塔から外して、ダルミンを据えることができたのは大きな意味があります。

知日派であるゴーベル貿易大臣(中央大学卒、元パナソニック現地合弁会社社長)の退任については、Akiさんご指摘のとおり、日本との関係への影響が気になるところですが、インドネシアの保護主義を導いた人物とも言われており、一般的な貿易政策の面では国外での評判が悪かった人物です。高速鉄道の中止についても、同大臣がいたところで結果が変わったとは思われず、現地ではそこまで心配されていないという印象です。

次に、②大統領の腹心については、ウィジャヤント長官を交代させました。後任のプラモノ長官は闘争民主党の重鎮であり、メガワティ総裁に配慮した人事とみられます。

一方で、パンジャイタン補佐官は調整大臣に横滑り就任させました。非常に重要なポストに抜擢し、ジョコ大統領としては自らの基盤を強化した格好です。また、調整大臣は4人おり、今回交代した3人以外にも人間・文化開発担当の調整大臣がいるのですが、ここにはメガワティ総裁の長女であるプアン・マハラニが就任しています。この人だけは交代させなかったのも政治的配慮を感じさせます。

以上より、①経済閣僚については、ナスチオン、ラムリ、レンボンという強力な人材を送り込み、②腹心の一部は交代させながら、一部は閣内に引き入れ、メガワティとカラという実力者にも配慮したと考えられます。個人的には、巧妙かつ中身のあった人事だったと思います。

改革のスピードが遅い、結局のところメガワティとカラにはかなわない、と厳しい評価をされてきたジョコ大統領ですが、そこは穏やかな物腰の中にしぶとさを秘めるジャワ人、なかなかにしたたかな面をもっています。そろそろ就任1年になりますから、ここから巻き返しを期待したいものです。

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One comment on “インドネシアの内閣改造
  1. ペルドン より
    高速鉄道

    中国・・まき直し・・枯れ木にも・・華咲かせたとか・・
    日本製のコピー・・アジアで席巻・・JR東海社長の判断ミス・・
    友人がなっていれば・・悔しい・・・

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