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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2015/09/22 00:00  | 日本 |  コメント(5)

安保法制と法学者の役割②


「安保法制と法学者の役割①」の続きです。

昨日述べたとおり、安保法制の憲法適合性は、最終的には最高裁で判断されることになります。

そこで、どのような判断が下されるかですが、私は、①理論的にはグレーであり、②現実的には憲法判断回避という結論がとられる可能性が極めて高いと思っています。

①理論面については、今回反対している憲法学者の方たちの考えは、「一見して明白に違憲」ということでしょう。この言葉は、憲法判例に従えば、憲法判断回避の結論がとられない場合の条件となるキーワードなので、このように使われています。

これ自体、私個人はそこまではっきり言い切れるものなのか疑問を感じますが、そこは憲法のプロの人たちの意見として、傾聴に値すると思っています。

しかし、②現実面では、裁判所という機構の性格をみても、これまでの最高裁の判断の歴史を見ても(これは別途(おそらく来週に)取り上げます)、この法案を法文上全部違憲とすることは極めて考えにくいです。

法技術的に言えば「統治行為論」により判断を回避する可能性が極めて高く、もしかしたら合憲限定解釈もあるかもしれない(この場合法律は条件付きで合憲のお墨付きを与えられる)とみるのが現実的です。

そうすると、理論的に考えるとこの法案は違憲だからダメと一刀両断して議論を終えることがどれほど生産的なのか分かりません。

前回の記事で述べたとおり、法治国家において裁判所の判断は絶対です。法学者に期待される役割は、既存の法源を整合的に組み合わせると将来にわたり真っ当な結論が得られるような論理を創造することです。

この究極目的を達成するのであれば、一刀両断に違憲無効という結論を出すのではなく、裁判所が憲法判断を回避する結論を念頭においた上で、ではこの法律をどう解釈すれば違憲となる事態を回避できるのか、そのために基準を厳格にしたり、あるいは適用範囲を限定するロジックを作る方が、よほど現実的で、建設的のように思われます。

たとえば「自衛権」という概念を憲法制定当時と21世紀の状況において同列に論じることが適当かという議論があります。

ブッシュ政権では「先制的自衛」という概念が検討され、また、アフガン攻撃は、伝統的国際法によれば正当化しがたいものでしたが、その違法性が国際的に問題とされることはありませんでした。

これが集団的自衛権の議論にそのまま当てはまるものではないですが、そもそも「自衛権」が自国への直接攻撃があってからでないと成立しないという伝統的な理解が、テクノロジーの発達、戦闘空間の拡大、国家規模の攻撃力を有するテロリストの台頭といった問題に直面する現代の戦争においても適当といえるのか、「自衛権」という言葉を文理でみるのではなく、より実質に踏み込んだ新しい理論を追求する点では、同じ問題意識を共有するものです。

これはかなり大変な作業です。しかし、大変だからこそやりがいがあるし、他でもない法学者という知性にしか成し遂げられないと誰もが認める仕事です。実際、民事法、刑事法の分野では、こうした仕事に真摯に取り組んでいる学者が尊敬され、実務においても高く評価されています。

今回の法案を成立させようとする政権に対して、知性の敗北とか、「思考停止」とする批判も聞きます。しかし、困難な現実から目を背けて、ただ自分の論理を一方的に唱えることは、結構簡単なのです。

本当に大変なのは、純粋な理論だけに閉じこもらず、政治社会の現実を見据えて、それを取り込んだ上で、真に現実に生きる論理を創造することです。私にはどちらかというと、前者の方が知的に怠慢で、後者の方が知的な挑戦心に満ちた姿勢のように思えます。

「安保法制の合憲性をめぐる議論」で以下のとおり書いたのは、こうした問題意識に基づいています。

「具体的合理性のある決定がなされれば、事実の集積にも影響されつつ、法律が整合的に解釈されるようになるのも現実です。我々はすでにその例を見ています。そう、自衛隊ですね。自衛隊も、憲法論から言えば限りなく黒に近いグレーの存在です。

実際、発足当時には激しい議論がありましたし、いまなお憲法学者の多くはこれを違憲としています。しかし、いま日本の政治家と国民の中で、自衛隊を違憲と考えて問題視する人がどれほどいるのでしょうか。

今の時代、自衛隊は違憲だからダメ、という結論を通し続けることは、明らかに生産的ではありませんよね。これと議論の状況はそれほど変わらないように思います。

もう一つ、合憲性の話とは別の議論になりますが、今回の法案は、安保政策の観点からみても到底必要とはいえないのではないか、という議論があります。

これについては、長くなってしまったので、また明日に回します。

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5 comments on “安保法制と法学者の役割②
  1. ペルドン より
    JDさん

    内閣法制局をテコに・・改憲できないから・・解釈で避ける事が可能なら・・現実解決の知恵で・・
    憲法裁判所誕生も難解ではないはず。
    もうとっくに・・最高裁事務局とのすり合わせは、済んでいるでしょう・・(今回の件は)
    新しい法解釈の流れを期待しますね・・みんな目が覚めて・・騒がしくなるのじゃありませんか・・・(笑

  2. JFKD より
    現実としては

    村山首相も自衛隊は合憲とし、野田首相、岡田副総理も集団的自衛権を認めていましたね。デモ隊は平和憲法を守れと言っているので、米帝支配のありがたみを今後も味わいたいとのことでしょうが、科学誌印刷業者さんがおっしゃってる通りそんな状況ではなくなっているので、あきらめて自分で戦いましょう。しかし徴兵するほどではなく先端兵器での決着が主だそうです(本当かな)。ただ中国得意の人質作戦を使われると日本人では判断できなくなる。今回は米国から集団的自衛権とはっきり言わされているので、しばらくは日本を守る構えでしょう。経費節減の折、あまりに片務的でせめてそう言わせないと出動する気にならないのでしょう。かといって日本は中国支配をどう受けるかの覚悟もできていない。最高裁もこういう経緯では責任とれないので違憲判断できないでしょう。ばかばかしいと思っても起ってしまうのが戦争。仏も第二次大戦では厭戦気分だった。中国の暴発次第ですが、主席の訪米では度々将来の亡命の相談をするとか。

  3. 科学誌印刷業者 より
    日本に侵攻する動機は?

     中ソが本気で共産革命を世界に広げようとしていた時代(=ニクソン訪中以前)よりも、国家間での侵略リスクが高いとは誰も言えないのではないか?
     中国の軍部の動きは対外的というよりも、「国内の政争の道具になっている要素」と「国内の不満を海外にそらす要素」の方が高い。
     ロシアのクリミア支配は「ロシア本国防衛上、戦略的にどうしてもゆずれない地理的な位置」であることが動機になっていると見る。ヨーグルトの利権を守るためではないでしょう。
     中東は石油埋蔵地域あるいはイスラエルが巻き込まれない限り国家間戦闘には発展しそうにない。
     我が国自体はさして資源があるわけではなく、侵攻するメリットに乏しい。
     以上を勘案すると我が国が軍事的な役割をになうことは、反撃される理由を招くだけであろう。火力、原発とも沿岸に配置しているのでこれらを破壊されるとたちまち継続戦闘能力を失う。
     真剣に国土を防衛しようとするなら他国と軍事同盟を結ぶこと自体がリスクであろう。
     

  4. ペルドン より
    業者さん

    >>火力、原発とも沿岸に配置・・

    これ・・致命傷・・射的の的・・
    これで国防云々・・馬鹿ちゃうか・・・(笑

  5. JFKD より
    業者さん

    冷戦時代土井たかこが、どこが攻めてくるんですか資源もないのにと叫んでいましたが、今だにそんな呑気な言葉を聞けて懐かしいです。一月くらい前、アラスカ沖で中国艦隊がどうも米領海を侵犯したらしいですが、冷戦時代だったらすわ米ソ開戦かというところですが、これから米中会談というのですからこれまた呑気なもんです。業者さんがそう思うのも仕方がないか。ところが日本にとっては冷戦こそが僥倖で、今の方が遙かに追い詰められています。米国は中国の核を恐れず、ゲームに応じている感じですが、日本と東南アジア諸国は領土を侵されているわけで、軍事同盟を結びたいのが本音。しかし日本は安保条約がありながら米国の時々の意趣返しに尖閣問題を使われ、中国領海法に領土と明記されてしまいました。大陸棚上の日本は領土という地図を国連に出したとか???(笑)。経済的にも米中同盟ですしね。中国に沖縄割譲したり、日本が自治区になるメリットを強調して頂ければ中国に売り飛ばされてもいいかなと思います(笑)。米国も日本を見極めようとしているのでは。

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