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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2007/07/06 12:14  | 金融経済解説 |  コメント(12)

トヨタと野村證券


「おい、どこに中国製品が入ってるかわからんのだから、原型のない、ハム、だのコンビニのコロッケだの、チキンナゲットなど、中身のわからんものは食べちゃためだぞ!! 」


「はい、わかってます。」


「 あと、うなぎはもちろん、スーパー等で売っている貝類もほとんどメードインチャイナで、麻痺製貝毒とか大腸菌とかうじゃうじゃ入ってるらしいぞ。」


「 はい、わかってます。」


「 野菜もだめだぞ。ピーナッツもほとんどチャイナ。これからつまみを買ってくるときは慎重に選んでこいよ。」


「 はい、でもぐっちーさん。一言いいですか。毎朝お飲みになってるそのペットボトルのウーロン茶、おやめになった方がいいんじゃないですか??」


「・・・・・」


 以上実話に基づく・・・・情けない。


さて、1985年以来、というようなものが相次いだのであれこれ調べているうちに気が付いたことがあるので、今日は備忘録的書き込みです。若い方はえー、という感想をお持ちになると思いますが、まあご参考まで。


 プラザ合意(1985年)以降、日本はバブルに突き進んだ。円高で景気が悪くなるとういのはうそだ、といつも私が言うのはその後、ドル円が1ドル250円から120円に突っ込んでいく過程でバブル景気(一般には1986年12月から1991年3月あたりまでを指す)を迎えていることだけでもわかるだろう。


さて、その最中。
1988年に野村證券は経常利益日本一宣言を出すこととなった。このときの野村の経常が5000億円、トヨタも5000億で、これからは金融の時代だ、だからトヨタを抜いて名実共に日本一、世界一をめざす、と高らかに宣言をした。それはまさに「ライジングサン」の始まりであり、この後株価が急騰して行くにつれ、それを背景に野村證券はまさに世界制覇に乗り出すことになる。


ニューヨークはもちろん、ロスアンジェルス、ヒューストンあたりまで駐在員を置き、シンガポールなど東南アジアを筆頭に、更にインド、UAE,オマーンあたりまで総合商社並みのネットワークを作りあげることとなった。これだけ「金融の雄」が直接出てくれば当時既に中抜き商売が廃れ、「物流から金融へ」というシフトを完了していた総合商社から見ればこの野村の海外進出はとんでもない脅威に思われたし、事実開発途上国以外でのファイナンスはことごとく野村が奪っていった。


1991年は日本の時価総額を背景にした海外買収が相次ぎ、東京23区の土地総額でカリフォルニアが買える、などと言ってはしゃいでいたのははこの頃である。三菱地所がロックフェラーセンターを買ったのもこの頃だ。


野村以外の金融機関も同様で、勢いづく日本勢に押しつぶされる様に収益を悪化させていたアメリカの金融機関は青息吐息、野村一社の時価総額はシティー、メリル、モルガンの3社を足して追いつくのがやっとだった・・・せめてシティーだけでも買っておけば、今頃日本は世界の金融大国だった・・・・とつくづく思うのだ。


もちろん製造業のトップ、トヨタもバブル景気に乗って絶好調だった。


しかしバブル崩壊ですべてが一変する事となった訳だが、現在この両者はどうなっているのだろうか。


トヨタは経常で2兆3000億円、時価総額は堂々の2160億ドルで世界第7位。
一方の野村證券は経常5000億、時価総額は370億ドルで世界ランクでは100位にも入っていない。日本はバブルですべてを失ったといわれるが、その意味では野村はすべてを失って、確かに経常は1988年に戻ってしまった。


しかしバブル崩壊後、しかもあれだけの円高の最中、実際円の最高値は95年4月、79円75銭をつけている訳だが、、一番苦しい時期があったにも係わらずトヨタはここまで成長を続けたのだ。一体何がこの2社の命運を分けたのだろうか?


バブル崩壊直後、野村はこれはいかんとばかりに大転換をする。
世界制覇の野望を捨て、本業回帰だ、まだ基盤の残っている日本の市場に資源を集中するしかない・・・とあれだけの海外ネットワークと投資と人材をすべて引き払い日本国内に集中した。しかも一番強い個人営業を強化すると言い出したのだ。


今思い出しても残念でならない。本業集中とばかりにせっかく芽を出しはじめた投資銀行業務、ボーダレスのM&Aなどの部隊をすべて国内に引き戻し、彼らを支店で自転車に乗せ株の注文をとれ!! とどやしつけた。どれだけ優秀な国際金融マンが野村を去ったか、言うまでもない。


 一方トヨタは歯をくいしばって海外の生産拠点を維持し、かつそれを拡大する戦略に出た。円高だから、やむをえない戦略だったのだとしばしば理解されるが、今当時のトヨタのメンバーから話を聞くと内実はそんな消極的な話ではなく、やむをえない戦略どころか今後10年20年を見据えた極めて勇気ある選択だったのだ。


トヨタが考えたこと。
それはバブルの崩壊で国内のパイを争ってみても仕方がない。日本国内の需要は人口減で遅かれ早かれ飽和するのだ。これからの生命線は海外にある、ということで中南米などの人口増加地域への進出はもちろん、一定の基盤があった北米市場の強化、更にはそれまで基盤の弱かった、あるいはメルセデスに未来永劫勝てないだろうと思われていた高級車分野の欧州生産にまで一気に走ることになる。 現在のトヨタの指導層はみなこの頃の海外ネットワークのトップを経験しているというのは偶然ではないだろう。


まさにこの海外戦略の違いにこそこの2社、野村とトヨタに象徴される金融業の凋落と製造業の興隆の原因があった、ということを忘れてはいけない。


 いや、金融業はとても海外で仕事になるような環境じゃなかったし、あれだけの株価や不動産の下落を見たらだれも日本の資産など買う分けないだろう、という人が多いのだがばかも休み休み言って欲しい。


円高なのだ。


現金ですら、10%以上の利回りでまわるのだ。


・・・・だから、この時期こそ海外で大いにPRをして海外の資金を寄ってたかって引っ張ってきて東京に持ち込むチャンスが十分にあったのだ。その証拠にこの時期にモルガン、ゴールドマンなどの外資系が東京市場で一気にシェアーを奪ってしまった。日本の証券会社がどぶいた個人営業で自転車であちこち回っているうちに、大切な投資銀行、債券、株式にいたるまで法人営業という法人営業がすべて食われてしまった。野村不在の証券業など赤子の手を捻るがごとく、「法人の山一」が潰れてしまったのは偶然ではない。


海外からの円資金の流入があれだけあったにも係わらず、野村は野村で国内株に集中といいながら、一体だれが海外の投資家向けに株式銘柄の分析を提供していたのか。だれが企業を連れてIRをやったのか。すべて外資だ。日本の証券会社は円高による海外資金の流入という千載一遇のビジネスをミスミス見逃していたのだ。


実際私はその時期に既に外資系にいたわけだが、海外の円資産への引き合いはものすごい勢いで、株式、日本国債はもちろん、投資銀行業務など大量のビジネスがその辺に転がっていた。


よく思い出すのは当時BOEが


「JGB(日本国債)を買いたい、できれば日本一の野村證券とやりたいが、彼らはあまり積極的にセールスに来ないし、2000億円の国債は仕切れない(一回の取引ですべてを決めること)と言っているので、あなた方(モルガンスタンレー)は仕切るというから仕方なく発注するよ」


と言ってきたことだ。BOEから見れば日本の国債を日本の証券会社が仕切らない、というのだから面食らった事だろう。世界中で国債を買っているBOEはびっくりしたに違いない。


野村にしてみればそんなものを2000億も仕切って損をするより、国内の郵貯、簡保などにしがみ付いていればシェアーは守れるし、余計なことはしたくない、という事だったのだろう。しかし、これにしたって現在の国債の引き受けランキングを見て欲しい。上位を独占しているのが外資系ばかりではないか。


危機に際して世界に活路を求めたトヨタとうちに引きこもった野村。
まさに日本の製造業と金融業の今の姿を現しているということだ。ではこれから日本の金融業は何をするべきなのだろうか?


 


次回は、では日本の金融機関はこれからどうしましょう・・・という話です!!


 

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12 comments on “トヨタと野村證券
  1. Unknown より
    Unknown

    ぐっちーさん見たいな人が経営陣にいれば少しは変わるんでしょうけど。ただみんな同じようなこと考えていてもしがらみがあったり、職場の縦のラインがあって、そんなこと言う前に自分の仕事に集中しろなんて言われたり。だからみんな黙っちゃって変われないんですよね。

  2. やまさん より
    大変読みごたえある記事ありがとうございます。

    大変読みごたえある記事ありがとうございます。

    金融業と製造業の比較はわかりやすかったです。

    製造業の海外躍進について補足コメントを書かせていただきます。当時から日本車と欧米車の品質に天と地以上と言っていい位の差があり(故障発生率が10倍から1000倍位の差があった)、成果物の出来栄えが非常に優れていたという背景もありました。

    逆に外車勢は出来栄えが良くなかったので当時も今も日本でシェアを伸ばすことが出来ません。

    その点において製造業は金融業よりも海外事業がやりやすかった点はあるのではないかと思います。

  3. Unknown より
    次回も楽しみです

    読み応えがありました。週刊誌で特集できるぐらいのものが、ただで読めるのは嬉しい限りです。

    大英断がマイナスの方向に行くのは悲しいですね。どちらに転ぶかは未来の人にしか分からない。成功の理由は無いが失敗の理由は沢山あるとは偉人の言葉です、確か。

  4. けろよん より
    Unknown

    隣の家の芝生は青く見えるという事
    じゃないですか?

  5. XYZ より
    Unknown

    おかしいなぁ。日本では、随分昔から堂島で先物取引やってたり、国内で金銀銅の変動相場をやってたり金融のセンスが無いわけ無いはずなのに、この体たらく。誰かが、日本の金融マンが馬鹿になるように先導して行ったのかなぁ。

  6. Unknown より
    Unknown

    いつも、楽しく拝見させて頂いてます。

    ところで、最近、スーパーに行くとJAS規格を付けた
    中国産の食品が売られているのをみますが、
    安全とは言いがたいのでしょうか?

    今後の記事も楽しみにしてます。

  7. ペルドン より
    トヨタ・・・

    82年に自工と自販が合併した。
    二人の神様の合意が今日の成功を招いた。
    自販の国際派の存在は否定出来ない背景なのでは?

    野村にはその神様がいなかったのでしょう。

    ぐっちーさんにも神様が附いている事を・・・

  8. とおりがかり より
    金融商品の原点(商品としての価値)

    金融セクターと製造業との比較、大変面白く読ませていただきました。
    個人投資家の立場で見ても、ヘトヘト証券を始めとして日本の金融の出してくる金融商品って商品としての形を成していないと常々思っています。そういう観点からは、アメ車と非常に似ているというアナロジーが成り立つのではと思います。特に日本の三大証券系の投信は、投資信託としての形を成していないし、本気で市場を育成するつもりがあれば、顧客を無視した商品を並べてくる必然性がありません。この辺は、デトロイトがアメ車をマーケティングするのと、非常に似ています。投信の商品開発は、規制の障壁に守られてまだまだ、外資がリテールで勝負してくる姿を見ることはないのかも知れませんが、良い商品もちらほらと出てきています。外資が本気で投信を取り扱う時代もすぐそこに来ているのではないかと思うのです。そのときは、環境に適応できなかった恐竜が地上から姿を消したように、我が国の金融業の多くが、市場から姿を消すのかもしれませんね。

  9. nao より
    Unknown

    金融の20年の総括という意味で、非常に示唆に富むエントリーでした。ただ、「製造業」と一緒くたにするのは・・。電機は・・。電機もまさに「内向き」であることが低迷の原因の一つという意味では、金融の凋落とリンクするところはありますね。次の、金融業の処方箋エントリーも楽しみにしております。

  10. 雪斎 より
    Unknown

    実は、拙者は、日本の将来は、まともな金融資本主義の確立にかかっていると常々、思っていました。
     バブルの頃には、東京は、ニューヨーク、ロンドンに比肩する「マネー・センター」になれるのかという書が出たものでした。もういちど、思い出す必要があります。

  11. st より
    Unknown

    日本の金融機関にはどうすれば外貨を稼いで日本の為に尽くせるかを考えてもらいたいですね。

  12. やぶ猫 より
    なつかしい

    86年から91年といえば、ちょうど私が野村のNY現法に勤務していた期間とぴったり重なります。本社に転勤になって成田に着いたとき、空港のテレビでトップ辞任のニュースが大々的に報じられていたことが、強烈に印象に残っています。「証券不祥事」というやつですね。翌92年には外資に転職したので、その後の野村については、よく今日の姿まで立ち直ったな、みんなよく頑張ったんだな、という感が強いです。独立した日本の雄として引き続き頑張って欲しいものです。

    米国は投資銀行のトップが財務長官になるお国柄。米国のベスト&ブライテストはウォール街とシリコン・バレーに集結する。これに石油関連ビジネスのテキサスを加えればアメリカの戦略産業、金融、IT(半導体)そしてエネルギーのそろい踏み。金融戦争も半導体戦争も、出る杭は打たれるのでほどほどに。ただし、エネルギー戦略で楯突くとアメリカはホントに戦争仕掛けてくるので要注意。自動車は、まあ、それほどには戦略的に大事だとは思ってないだけなのかも・・・。

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