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The Gucci Post [世界情勢・政治・経済金融 × プロフェッショナル]

2005/05/23 16:45  | 金融経済解説 |  コメント(2)

元の切り上げと為替の行方


結構ご質問の多いのがこれ。今年の重要テーマですものね。われらがマンデル先生のご専門でもあるので、ちょっと特集しておきましょう。

元を切り上げると円高になる・・・・だろう、と思われますが、その保証はありません。切り上げ幅にもよるでしょうし、いろいろなファクターに左右されますが、変動相場制移行という話でもなく、単に切り上げて、ドルペッグ制を引き続きとるならその影響は限られてくるでしょう。元ドル相場が固定されているので、元円相場も固定されているようなものです。対ドルで円高、という方が多いのはむしろドル安なのだから、円高でしょ、というわりと単純な考え方でしょうか、私もそちらだとは思います。相対的なドル価値の下落と読むわけです。

ポイントは2つあります。1つ目。こういう金融自由化の進展はその通貨がより強くなると言う意味を持っていて、ドル需要が減ることによるドル安という見方をします。しかし元の場合こういう体制の国の通貨を持っていて安心だという人が世の中にどれだけいるんだろうか・・・ということからするとやはり元に対する需要は限られてくるでしょう。ドルペッグを続けるならドル資産を買い続けるしか中国に選択肢はないので、それだけでドル安とみるのは難しいのです。これまでのアジア通貨のような「相対的な」通貨需要はない(資産としてのニーズ)となれば極めて限定的な通貨の上昇でしょう。(もちろん現在は中国外での取引は原則できないので、実際に買おうとしてもっ難しいんですが、中国内部にいる外資系企業が元で保有するリスクはかなり高いと見ているはずです)

2つ目はこのドルペッグを辞めると言うケース。この際、シンガポールのようにバスケットにするよ、という可能性は無きにしもあらず。現在1ドル8.3元でほぼ固定されており、これを0.3%という幅に動きを制約しています、それを超えると政府が介入してくる訳ですね。これを例えば8元に対する価格表示をドル、円、ユーロなどのアベレージ(恐らく加重平均)にするというやり方である。この場合、通貨の(元の)ペッグしている相手の通貨が分散するので、その分散どおりに外貨資産を積み立てることになり、これは完全にドル安要因といっていい。今までのように一方的にドルを買わなくても良くなるからですが、但し、これは唐突には行かないでしょう

元と言う通貨は中国国内に留まっていて、海外で売り買いが難しい(一部香港などで例外的に行っている)訳で、メカニズムとしては中国が輸出で稼いだ外貨が殆どドルのため、これを中国全土の市中銀行から一方的に中央銀行が買い入れ、その代わりに元を発行している事になります。決済資金の一部が他通貨ならそのまま同様に買い入れればよいが、もし、貿易決済の大半が引き続きドルである場合、他通貨に変更する度に為替リスクを負うことになりますね。この場合もドル売り他通貨買いなのでやはりドル安材料になります。さらに貿易取引の最大の相手である日本との間の決済を円、ドル以外の通貨で決済できるのかどうか、まあ、微妙でしょうね。もちろん技術的には可能ですよ。

問題の根はちょっと別なところにあるかもしれません。WTOに加盟しているような国が今のような閉鎖的マクロ経済運営を続けられる可能性は極めて低いでしょうが、中国共産党の全ての権限を無視して将来的に元を変動相場性に移行し市場リスクにさらす決断がはたして出来るかどうかということです。それについてかなり明確な姿勢を中国政府が打ち出さない限り、いくら自由化しようにもこの通貨に対するニーズと言う意味では極めて限られてきて、将来的には(アジア危機のような)通貨危機の引き金を引いてしまうことも十分に考えられます。実際にアジアの通貨危機は起こったわけで、一時的アジア通貨高が輸出を減らし、外貨準備を減らし、いざ通貨価値が下がってきたときに買い支えようにも買い支える外貨が国庫になく、HFの餌食にされた、という事態です。韓国などは、これでIMF送りにされてしまいました。

ほんとうに怖いのはやはり通貨安なんです。日本ではこのあたりがまだ理解されておらず、実際に円安を食い止めるために円買い介入をする時は相応の外貨を必要とする訳で、かなりの困難が伴う筈です。まだまだWTOに入ったばかり、かつ制度上の信用度の低い元が今後どういう扱いを受けるか、世界初の大実験です。マルクスもレーニンも共産主義を標榜する国が通貨自由化に直面するとは想像すらしていなかったでしょう。

わかりにくい議論にお付き合いいただきまして有難うございました。

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2 comments on “元の切り上げと為替の行方
  1. reve より
    なるほど!

    ありがとうございました。
    そのような仕組みだったのですね。
    ぐっちーさんは、いつも難しいことをわかりやすくお書きになるので、楽しく読ませて頂いております。
    これからもご教示ください!

  2. ぐっち より
    reveさん

    いつもどうもありがとうございます。お褒めに預かり光栄です。頑張って書いていこうと意欲がわいて参ります!!

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